人手不足が慢性化している分野での外国人材の受け入れでは、これまで中核を担ってきた「技能実習」制度が、2027年を目処に「育成就労」制度へ移行します。ここでは、新制度のポイントと、企業が取るべき対応をわかりやすく解説します。
日本の外国人材受入れの大きな柱であった技能実習制度が、新たに「育成就労制度」へと生まれ変わります。単なる名称変更ではなく、制度の目的やしくみが見直されることにより、外国人材を「育てて確保する」という方向性が明確に打ち出されたかたちです。
技能実習制度は、日本が先進国として培った技能や技術、知識を開発途上国へ移転し、その国の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とした国際貢献のための制度です。在留期間は最長5年間で、技能実習1号から始まり、試験に合格することで2号・3号へ段階的に移行するしくみでした。
上記の制度は、外国人材を受け入れる企業である「実習実施者」と、その企業を監督・支援する「監理団体」によって運用されています。
しかし、本来の目的である「技能移転」と、人手不足を補うための労働力確保という「実態」との間に乖離が生じていると指摘されてきました。
こうした技能実習制度の問題点を踏まえ、新たに創設されるのが「育成就労制度」です。この制度は、技能実習制度を発展的に解消し、人手不足が深刻な分野において外国人材を育成し、確保することを主な目的としています。
在留期間は原則として3年間で、この期間内に「特定技能1号」の水準まで人材を育成することがゴールとされます。受け入れ可能な分野も、原則として特定技能制度の対象分野と一致させることで、キャリアパスの連続性を確保します。
大きな変更点として、一定の要件を満たせば、外国人材本人の意向による転籍(転職)が認められるようになります。また、個々の育成計画を国が認定する「育成就労計画」の制度や、監理団体に代わる「監理支援機関」の許可制など、より厳格な運用体制が導入され、外国人材の保護と適正な育成が図られます。

育成就労制度の施行は、法律が公布された2024年6月21日から3年以内とされており、具体的な日時はまだ決まっていませんが、2027年頃になる見込みです。
なお、技能実習から育成就労へと制度が移行するときは経過措置が設けられます。制度移行後も技能実習を継続できるケースとして下記が挙げられますが、いずれの場合でも期間終了まで技能実習のルールが適用される(技能実習中の外国人を育成就労へ移行させることはできない)点に要注意です。
一方で、施行日時点で上記の条件にあてはまらない場合、旧技能実習での受け入れはできません。具体的には、下記のようなケースです。
育成就労制度では技能実習制度が抱えていた課題を解決し、より明確な目的のもとで運用されます。ここでは、その具体的なしくみについて詳しく見ていきましょう。
※参考1:育成就労制度の概要(出入国在留管理庁・厚生労働省)
※参考2:育成就労制度・特定技能制度Q&A(出入国在留管理庁)
育成就労制度で受け入れが可能な分野は、原則として「特定技能」の対象分野と一致します。これにより、育成就労から特定技能へのスムーズなキャリアステップが期待されます。ただし、日本国内での育成になじまない分野は対象外となるなど、例外も設けられています。
対象分野は制度の施行前から順次定められ、今後の状況に応じて見直される可能性もあります。企業は、分野ごとに設定される受入数の上限を念頭に置き、採用計画を立てる必要があります。
育成就労の対象となる外国人には、いくつかの要件が定められています。まず、入国前の段階で
のいずれかが必要です。技能面でも、基礎的な技能試験に合格しなければなりません。
入国後は、3年間の就労を通じて日本語能力をN4相当(A2レベル)まで引き上げることが目標となります。この技能や日本語の試験合格は、後述する本人の意向による転籍(転職)の条件にもなっており、キャリアを考える上で重要な要素です。
外国人を育成就労で受け入れる企業側にも、遵守すべき要件が複数あります。最も重要なのは、個々の外国人ごとに育成期間や目標、指導内容を定めた「育成就労計画」を作成し、国の認定を受けることです。
また、多くの場合は、国の許可を得た「監理支援機関」のサポートを受ける必要があり、この機関が定期的な監査や支援を行います。
そのほかにも、以下のような体制を整えることが求められます。
育成就労制度の大きな特徴は、3年間の育成期間を経て、より長期の就労が見込める「特定技能」への道筋が明確化されている点です。ここでは、入国から特定技能へ移行するまでの具体的なステップを解説します。

育成就労の対象となる外国人は、母国の送出機関で募集が行われるとともに、同機関で基本的な事前研修を受けます。外国人と国内企業のマッチングは、送出機関(外国)と監理支援機関(日本国内)の間で行われます。
外国人を受け入れる企業に求められるのは、育成就労計画の策定です。計画の内容は、業務の内容、身につけてもらう技能、日本語能力などが中心となります。この計画が外国人育成就労機構の認定を受けることで、育成就労制度による外国人受け入れが可能になります。
▼監理支援機関とは
……育成就労機関の受入れ企業に対する監理・指導、育成就労外国人の支援・保護などを行う機関です。技能実習制度における監理団体と似たような役割ですが、その責任は強化され、厳しい基準を設けたうえで許可制とされています。
▼外国人育成就労機構とは
……育成就労計画の認定を行い、監理支援機関への助言・指導や、育成就労期間における実地調査を行う機関です。入管と連携し、制度が適切に運用されているかチェックするとともに、外国人の相談を特定技能1号への移行後も受け付けています。
原則3年間の育成期間の終わりには、その成果を測るための評価が行われます。特定技能へ移行するためには、以下の2つの要件をクリアしなければなりません。
これらの試験の合否は、特定技能への移行だけでなく、本人の希望による転籍が可能になるかどうかの判断基準にもなります。万が一、試験に不合格となった場合でも、最長1年間在留を延長し、再挑戦する機会が与えられます。
上記の評価試験に合格すると「特定技能1号」への在留資格変更手続きに進むことができます。特定技能1号の在留期間は通算で最長5年です。手続きの際には、分野ごとの要件を満たしていることや、試験の合格を証明する書類が必要となります。
さらに、特定技能1号で熟練した技能を身につけた人材は「特定技能2号」へとステップアップする道も開かれています。特定技能2号は、より高い日本語能力(N3相当)が求められ、対象分野も限定されますが、在留期間の更新に上限がなく、家族の帯同も可能になるなど、日本での長期的なキャリア形成が視野に入ります。
なお、育成就労制度を経ずに、海外で直接特定技能1号の試験に合格し、初めから特定技能ビザで来日するというルートも引き続き利用可能です。
新しい育成就労制度について、多くの企業様からご質問が寄せられています。特に、現行の技能実習制度からの切り替え時期や、すでに受け入れている人材の処遇、新しいルールの運用など、気になる点は多いでしょう。ここでは、とくに重要な疑問についてQ&A形式で解説します。
A. 育成就労制度の施行日をもって、技能実習制度での新規受け入れは原則として終了します。
ただし、経過措置として、施行日の前日までに技能実習計画の認定申請が行われたものについては、施行日以降も技能実習生として受け入れが可能です。特に、実習の開始が「施行日から3ヶ月以内」の計画は、例外的に認められる場合があります。
注意点として、申請が施行日前でも、計画の認定が施行日後になるケースも想定されます。また、監理団体の許可の有効期限も関わってくるため、現行制度での受け入れを検討している場合は、早めに監理団体と相談し、スケジュールを確認することが重要です。
A. 制度の施行日時点で技能実習生として日本に在留している方は、原則としてそのまま技能実習を継続することができます。
ただし、いくつかの注意点があります。
■制度の途中切り替えは不可
……滞在の途中で技能実習から育成就労へ切り替えることはできません。その技能実習生は、帰国まで技能実習のルールの下で処遇されます。
■次段階への移行制限
……技能実習2号から3号に進む際には一定の制限がかかる可能性があります。(今後整備される予定です)
■元技能実習生の再入国
………過去に技能実習を修了して帰国した人が、再び技能実習生として来日することはできなくなります。ただし技能実習を行っていた期間や職種によっては、育成就労外国人として再度入国することができる可能性はあります。
A. 育成就労制度では、本人の意思による転籍(転職)が一定の要件下で認められるようになります。これは、技能実習制度からの大きな変更点です。
転籍が可能になる主な条件は以下の通りです。
転籍にはいくつかのルールがあります。同じ職種・分野内での転籍は比較的スムーズですが、分野が異なる仕事への転籍は制限される場合があります。転籍の手続きは、監理支援機関やハローワークが連携してサポートする体制が整えられます。
企業側としては、転籍者を受け入れる際には、分野ごとの受入人数の上限などに影響がないか、事前に確認することが大切です。
在留資格「技能実習」の代わりに創設される「育成就労」ポイントは、人材育成と確保を目的とし、原則3年間の育成期間を経て特定技能への道筋を明確にすること、そして一定条件下での転籍が可能になる点です。施行は2027年頃と見込まれますが、現行の技能実習生の処遇や、監理支援機関の選定、社内体制の見直しなど、今から準備できることは少なくありません。
育成就労制度への対応や、特定技能への移行手続きは複雑で、専門的な知識が求められます。「自社だけで対応できるか不安」「最新の法令に沿った、間違いのない申請をしたい」とお考えでしたら、ぜひ一度、外国人ビザ申請を専門とする行政書士法人Luxentにご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なサポートをご提案します。
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