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日本の宿泊事業を担う経営者の皆様、インバウンドの回復と人手不足の深刻化は、喫緊の課題ではないでしょうか。特に、多様化する宿泊客に対応するため、多言語対応可能な人材は必要不可欠です。
宿泊分野における特定技能制度は、この深刻化する人手不足を解消し、専門性・技能を生かした外国人人材を即戦力として受け入れることで、分野の存続・発展を図ることを目的としています。
現在、宿泊分野では既に 2万人程度 の人手不足が生じていると推計されており、今後は2028年度(令和10年度)までに全国で 7万4,000人程度 の不足が生じると見込まれています。この状況に対応し、政府は向こう5年間で最大 2万3,000人 の特定技能外国人を受け入れる見込みです。
本記事は、初めて特定技能外国人を受け入れる経営者の皆様へ、制度を正しく理解し、スムーズに受入れるためのポイントを説明します。
特定技能外国人として受け入れた人材が従事する業務は、以下の通り定められています。この制度の大きな特徴は、日本人が通常行う業務であれば「関連業務」に付随的に従事できるという、比較的幅広い業務内容が認められている点です。
| 業務区分 | 内容 | 根拠となる業務 |
| 主たる業務 | 宿泊サービスの提供に係る業務全般 | フロント、企画・広報、接客、レストランサービス |
| 関連業務 | 主たる業務に付随的に行う業務 | 館内販売、館内備品の点検・交換等 |
ただし、重要な点として、特定技能外国人は、関連業務のみに従事することは認められていません。試験等で証明された技能を活かして、宿泊サービスの提供に幅広く従事することが求められます。フロント業務、企画やホテルの宣伝、レストランサービスなどどれか一つに固執することなく、マルチに活躍してもらえる人材と考えるのが良いでしょう。
特定技能外国人として働くには、即戦力として必要な技能と、生活・業務に必要な日本語能力の両方が求められます。
技能水準
「宿泊分野特定技能1号評価試験」に合格すること。または、「宿泊分野」の第2号技能実習を良好に修了した者であれば、試験が免除されます。
日本語能力水準
「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格すること。
職種・作業の種類にかかわらず、第2号技能実習を良好に修了した者は、上記の日本語試験は免除されます。
特定技能外国人を受け入れる貴社は、以下の要件を満たす必要があります。
| 要件項目 | 内容 |
| 事業形態 | 旅館業法に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けていること。 |
| 風俗営業 | 風俗営業等の規制対象施設に該当しないこと、および外国人材に「接待」を行わせないこと。 |
| 協議会加入 | 国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」の構成員となること。 (登録支援機関に支援業務を委託する場合は登録支援機関も協議会加入が必要) |
| 雇用形態 | 労働者派遣の対象としない直接雇用に限ること。 |
良くいただく質問として、「民泊事業を営んでいる事業者でも特定技能外国人の受入は可能なの?」というものがあります。回答としては、特定技能(宿泊分野)の受入れ対象は、旅館業法に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けた事業者 に限定されます。
したがって、以下の事業形態は、原則として特定技能(宿泊分野)の対象外となります。
受入れをご検討中の企業は、自社が取得している旅館業の許可種別を必ず確認してください。確認の書類としては「旅館業許可証(旅館・ホテル営業許可書)」が必要です。
初めて特定技能外国人を受け入れる企業が最も不安を感じるものが、この「在留申請」と「協議会への対応」です。アンケート調査でも、宿泊施設が外国人を雇用する際の最大の課題は、「就労ビザ等、日本の在留資格許可申請への対応が困難」(32.5%)でした。
「宿泊分野特定技能協議会」は、制度の適正な運用を図るために国土交通省が設置する組織であり、加入は特定技能所属機関の必須の要件です。
加入のタイミングと必要書類
特定技能所属機関は、特定技能外国人に係る在留諸申請の前に、協議会の構成員になる必要があります。そのため、特定技能外国人の雇用を決めたら、まずは協議会加入の申請に取り掛かるべきでしょう。e-Govを使ったオンラインでの申請ですが、状況によっては1ヵ月程度時間がかかる場合があります。 加入後に発行される「宿泊分野に係る特定技能外国人の受入れに関する協議会の構成員であることの証明書」は在留申請時に入管に提出します。
協議会加入についての詳細: 宿泊分野特定技能協議会
加入後の義務と重要性
協議会に対し、必要な協力(情報共有、調査協力)を行う義務があります。これを怠るなど、協議会の構成員として不適格と認められた場合、特定技能外国人の受入れができなくなることがあります。 また、 支援計画の実施を登録支援機関に委託する場合、その登録支援機関も協議会の構成員であることが求められます。依頼時に必ず確認しておきましょう。
在留資格申請で不許可とならないために、以下の4点を必ずチェックしておきましょう。
労働者派遣の禁止
特定技能(宿泊分野)では、外国人は労働者派遣の対象となることを内容とする特定技能雇用契約を締結していないことが基準とされており、直接雇用が必須です。
この双方の行為が厳しく禁止されています。違反した場合、入国・在留諸申請において不正行為に該当し、以後5年間は特定技能外国人の受入れができなくなるペナルティがあります。
(参考:労働者派遣の禁止) 特定技能外国人を派遣し、又は派遣された者を受け入れた場合、不正行為として5年間受入れができなくなります。
報酬要件:日本人と同等以上であること
特定技能外国人の報酬は、同等の業務に従事する日本人と同等以上である必要があります。特定技能雇用契約は、労働基準法その他の労働に関する法令の規定に適合していることが求められます。賃金規程、給与明細、日本人社員との待遇比較表などの提出が求められ、特に不当な差別的取扱いをしていないか、厳しく審査されます。
義務付けられた支援計画の履行
特定技能1号外国人を受け入れる企業には、外国人が日本で安定して生活・就労できるよう支援する「1号特定技能外国人支援計画」の策定と実行が義務付けられています。この支援を自社で実施することが難しい場合は、登録支援機関にすべてを委託することができます。
特定技能外国人の通算期間
1号特定技能外国人は通算で5年までしか在留できません。既に数年他社で働いていた場合残りの期間までしか雇用ができず、2号に移行ができなかった場合は帰国せざるを得ないことも考えられます。パスポート(指定書)や在留カード、ヒアリングなどで把握しておきましょう。
在留申請をクリアした後も、外国人材の定着と活躍に向けた課題は残ります。公開されている実際のアンケート結果をもとに外国人材の課題について考えてみましょう。
| 課題(アンケート結果) | 割合 | 対策の方向性 |
| 言語が通じず業務に支障がある | 32.5% | 外国人材に合わせた教育と日本語支援の強化。 |
| 将来的な帰国意思等、長期での就労意思が低い | 31.7% | キャリアアップパスを提示し、長期的な定着を促す。 |
| 既存の日本人従業員とコミュニケーションで軋轢がある | 20.1% | 相互理解を深める社内交流の実施。 |
言語課題への対策: 外国人材向けの分かりやすい現場マニュアルの作成(「優しい日本語」の使用)や、日本語教育の支援が効果的です。外国人従業員自身も、働く上での課題として「日本語の勉強を助けてほしい」(19.4%)を挙げています。

定着課題への対策: 宿泊分野で働く外国人従業員の将来展望として、「現在のホテル・旅館で昇格・昇給したい」という回答が50.0%と最多であり、日本人と同様に管理職への登用など、キャリアアップの機会を提供することが、定着に繋がるものと思われます。
| 課題(アンケート結果) | 割合 | 対策の方向性 |
| 住居の手配等、生活の支援が難しい | 21.3% | 福利厚生を充実させ、来日後の不安を解消する。 |
住居・生活支援: 一軒家の一部を社宅として提供し、キッチン付き居住空間やWi-Fiを整備した事例や、採用面接時に寮や病院、学校など現地を一緒に案内した事例など、きめ細やかなサポートが外国人材の安心感に繋がっているようです。
外国人材の雇用理由として「人手不足対策」(73.1%)が最多ですが、彼ら自身は非常に高い学習意欲を持って日本に来ています。
特定技能試験合格者が宿泊業を選んだ理由のトップ3は、
です。
この高い意欲を持った人材を獲得するためには、彼らが情報収集に活用するルートへの効果的な求人情報の発信が重要です。試験合格者が就職先を探す際に参考にしている情報源は、「インターネット検索」(44.0%)、「SNS」(39.4%)が上位です。現在、就職意欲があるにもかかわらず、「日本のホテル・旅館の仕事がなかなか見つからない」(23.3%)状況にある合格者が多数います。
企業が雇用した外国人材に対して抱く印象は、非常に肯定的です。
また、彼らの積極的な姿勢は、既存の日本人従業員にも良い影響を与えています。外国人材の真剣な姿勢に感化され、若手日本人スタッフの業務スキル向上や、社内コミュニケーションの活性化につながった事例も報告されています。
特定技能制度の適切な活用は、貴社の人手不足解消と国際競争力の強化に直結します。
受入れ成功の鍵は、制度要件を満たすだけでなく、外国人材を単なる「労働力」と見なさず、日本人社員と同等以上に尊重し、キャリアアップの機会を提供することです。受入れ企業側には、「外国人材を国内人材と同等に扱うという、雇用者側の意識改革も重要」という認識もあります。
貴社が今すべきことは以下の3点です。
特定技能制度の適切な活用は、貴社の企業文化の醸成と、将来的な経営基盤強化につながります。貴社の外国人材の受入れ成功に向けて、参考になれば幸いです。
※参考資料:観光庁 宿泊施設における外国人材の受入れ状況に関する実態調査
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